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第112回 向こうから買いたいと言ってくるのを待たなきゃ、価値が下がる

ブランディングの仕事をしていると、その会社のどこに独自性があるかをいつも見るようになります。目に留まるのは、素晴らしい技術力だったり、社員の対応のきめ細やかさだったり、挨拶の仕方だったりするわけですが、私が一番気になるのは、そうした行為や活動の根底にどういう想いを持っているかというところです。

ビジネスというと、どうやって利益を出すかという面に注目が集まります。会社の商品・サービスを売る営業活動もどうやって顧客に納得してもらうかが重要になります。それはその通りなのですが、そればかりだと客は買ってくれない。

まだ駆け出しの頃、ある偉い先生のカバン持ちをして社員数百名を抱える会社の社長のところにコンサルティング商品を売りに行ったことがありました。社長の年齢は、60代後半。偉い先生が訪問したのですから相手の社長も一目置いて、先生の話に乗ってくださる。自分の話もしてくださる。

会社に入れた自分の息子がふがいないから生え抜きの別の社員に社長職を譲りたいとか、あるコンサルに販路開拓を依頼したがうまくいかなかったとか、知り合いの社長の奥様が見栄っ張りとか、世間話ともお悩み相談ともつかない話が30分ほど続きました。そして、すこしの沈黙。そのあと相手の社長がぽろっと言いました。「先生、自分から売りこんじゃだめだよ。向こうから買いたいと言って来るのを待たなくちゃ、価値が下がる」と。

社長の言い方があまりに自然だったので、その意味するところを理解するのに時間がかかりました。

いま振り返れば、同行の先生は自分の提供するコンサルティングの優れた点を一生懸命説明していました。相手の社長はそれをかわしつつ、こちらの意図を見透かしたかのように、静かに強烈なジャブを打ってきたのです。

偉い先生がわざわざ来てくれたとなると、相手はなかなか本音を表してくれません。ぽろっと本音を表した背景には、早く切り上げたい想いがあったのか、こちらを思いやる気持ちがあったのか。今となっては推測しかできませんが、後から効いてくるジャブであったのは確かです。

みなさんもこんなご経験ありませんか。ご自分の商品やサービスを懸命に売り込んだあげく、肩透かしに合う。営業はそこがスタートという言い方もできますが、そこにある心理的なやりとりに気づかないといつまでも同じところをぐるぐる回ります。

ブランディングが必要な理由はここにあります。まずこちらを知ってもらう。信頼を培う。そして商品やサービスの機能的な特徴を知ってもらう。

「マーケティングは営業を不要にする」という言葉があります。あらかじめ相手のニーズに合致した商品、サービスを用意しておけば、こちらからわざわざ売り込むまでもなく相手は購入を検討し始める、と。

ブランディングはマーケティングにもう一つ、信頼と共感の構築という要素を加えます。これらの構築にふさわしいブランドストーリーを用意し、それを伝え、目的を達成します。

そして今語るべきブランドストーリーは、自社と顧客という枠を超え、地球環境や社会全般に目を向けたストーリーであると私は考えています。

即効性はないのですが、どこかの時点で始めなければ、いつまでたっても目標に向かって進むことができません。どんな会社でも事業でも取り組むことはできます。ぜひ一緒に考えましょう。


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